RMP FEATURE

RMP FEATUREQuipper

未来をつくる次の一手。オンライン学習サービスで世界の教育環境格差を解消したい。

世の中で注目を浴びている「EdTech」。すぐそこにある未来の変化を感じながら、世界の教育環境格差に挑む3名、Quipper創業者でCEOの渡辺雅之、ルワンダで教育革命を起こした牧浦土雅、『受験サプリ』の立ち上げメンバーとして事業を牽引してきた西山亮介、がリクルートマーケティングパートナーズ(以下、RMP)におけるオンライン学習サービスのグローバル展開について語り合う。

2016-01-21

■渡辺雅之:Quipper, ltd CEO
京都大学在学中から20数ヶ国の開発途上国を渡り歩き、貧困や教育の問題に強い関心を持つ。卒業後、1997年マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、当時の同僚の南場智子氏らと共にDeNA創業。多くの新規ビジネスを手掛ける。2010年に退社・渡英してロンドンでQuipperを設立。2015年4月、RMPの海外グループ会社に。知恵の流通革命を目指し活動を加速している。

■牧浦土雅:RMP ネットビジネス本部 ラーニングプラットフォーム推進室
1993年東京都生まれ。アフリカ、主にルワンダで国際協力機関と農民とをつなげるプロジェクトを牽引。Needs-One Co.,Ltd. 共同創業者。TED「世界の12人の若者」、AERA「日本を突破する100人」に選出。タイを拠点としたヘルスデータ事業”PDB”( Personal Data Bank)の立ち上げの後、輸送用ドローンを開発するベンチャーを創業、内閣府・国家戦略特区での政策立案・実行も担う。2015年10月RMPに入社。著書に『アフリカ・奇跡の国ルワンダの『今』からの新たな可能性』(DBS社)がある。

■西山亮介:RMP ネットビジネス本部 ラーニングプラットフォーム推進室 事業開発部
2006年リクルートに新卒入社。住宅領域のネット企画や事業開発に関わる。11年、New RING(新規事業提案制度)でグランプリを獲得し、立ち上げメンバーとして『受験サプリ』に参加。新人時代からNewRINGには積極的に応募していたそう。現在は、日本(サプリコレクション)、インドネシア、フィリピン(Quipper Video&School)において、オンライン教育サービスの中長期成長戦略の立案と実行推進を担う。

オンライン学習の未来を切り拓きたい

牧浦 僕の恩師が藤原和博さん(リクルートOB・元東京都杉並区立和田中学校長)なんです。3年半前からRMP社長の山口文洋さんとは知り合いで、いろんなつながりもあり、2015年10月、RMPに入社しました。現在、インドネシアでの事業開発を担当しています。入社して間もないですが、どうぞ宜しくお願いします。

西山 僕は立ち上げ当初から『受験サプリ』に関わっています。今は、日本のサプリに加えて、インドネシアとフィリピンの事業開発を担当しています。今日は、日本で高校営業に同行してきました。先日、渡辺さんがプレゼントしてくれた南米の民族衣装ポンチョを着て参加します(笑)

渡辺 ぴったりじゃないですか!ちゃんとしたお店で買った高級ポンチョなんですよ。そのメキシコの事業開発を僕が担当しています。こちらこそ、よろしくお願いします。インドネシアではオンライン学習はどれくらい進んでいますか?

インドネシアの教育事情 塾通いも危険で大変

牧浦 塾に通って受ける先生の授業をモバイルで見るという文化が、まだ根付いてはいません。そもそも新興国では、家庭教師にお金を払う文化はあるのですが、それがオンラインに替わると、「何でお金払わなくちゃいけないの?」「1000円でも高い!」となる。ただ、塾に通える子はごく一部で、その子たちも家から塾まで1~2時間かかったりします。インフラも整ってないので、大渋滞も頻繁に起こり、塾に通うのが日本では想像できないくらい危険だし大変。先日、初めて高校訪問した時、そのクラスに塾通いしている子どもが10人くらいいたんですね。今、インドネシアのカリスマ講師陣がQuipperにコンテンツを提供してくれているのですが、そのコンテンツを無料、もしくは、かなりの低価格で視聴可能だと伝えたら、塾に通う比較的恵まれた子たちが「アンフェアだ!」「塾、辞めようかな」と言い始めて。

西山 教育を受けるハードルをオンラインでぐっと下げていきたいですよね。『受験サプリ』もオンライン学習サービスだからこそ、経済的、地理的な理由で予備校や塾に通えない生徒にもカリスマ講師の講義動画を提供できる。しかも月額980円という低価格に設定したことで一気に広がった。インドネシアでも先生がいて、生徒がいて、親たちがいるという関係性は変わらないので、日本で成功したことは、必ずインドネシアでもうまくいくだろうし、その逆もあると思っています。サプリで提供している動画サービスは、インドネシアでウケると思いますし、その兆しも感じています。

牧浦 インドネシアでは、すでに先生と生徒のオンライン学習プラットフォーム『Quipper School』を導入している高校を訪問し、オンライン学習動画サービス『Quipper Video』を紹介しています。新しいサービスを浸透させるのは本当に難しいですが、ユーザーの心を掴めば一気に広がる感じがしています。インターネットのコネクションやデバイスの問題などもありますが、インドネシアでは国家予算の2割が教育に割かれているのでビジネスチャンスは大きい。都市部から離れた地方にも、世界の果てまで最高の授業を届けたいと思っています。

渡辺 質の高いコンテンツであることは前提ですが、危険で大変な思いをして塾に通うよりも、「オンラインでオンデマンドで、家で勉強できるっていいよ」という価値を新興国でも感じてもらいたいですよね。

朝昼2部制の学校 多忙な先生たち

牧浦 生徒側だけではなく先生側のサポートも僕らの役割だと感じています。インドネシアに限らず新興国に行って思ったのは、先生がとにかく忙しいということ。教える時間は日本と変わらないのですが、部活動や資料の整理にかなりの時間を取られ、実際の教育に集中できていないことが分かりました。先生の手が回らないところを、テクノロジーを活用することでもっとフォローできると思います。

渡辺 新興国では朝昼2部制で、先生は1クラス50人以上を10クラス以上担当したりする。先生に情熱があったとしても、授業の質を維持するのは相当難しい。生徒一人ひとりも先生にしっかり見てもらっているという実感はないでしょう。そういう環境のなかでテクノロジーを取り入れれば、効率的に雑務を減らし、先生が生徒と向き合う時間を増やすことができる。あるいは、子どもの苦手な部分を支援したり、得意なところをさらに伸ばしてあげるとか、時間をもっと有効に使えるようになる。教育環境が整っている日本に比べ、テクノロジーが果たす役割はすごく大きいと思っています。

ログで授業を分析 科学的根拠を持って改善

西山 それから、リアルな環境では分からないことが、オンライン学習だから分かるというログの面白さもあります。リアルの授業だと、生徒はつまらなくても席に居続けるので、聞いているのか聞いていないのかが分からない。でも、オンラインだと途中で視聴を止めるとログで分かる。最後まで生徒が聞く講師の授業にはどんな特徴や工夫があるのか、追究することができます。

渡辺 最初の何分までに生徒の気持ちを掴み、導入部分はどういうふうにすると良いのか。そういうことが「秘伝の書」というよりは、科学的に授業を分析でき、講師の皆さんにもフィードバックできる。僕たちも手間をいとわず、問題のある授業はより良い授業になるよう作り直す。そうすることで質の高い授業コンテンツを生徒に届け続けることができる。質へのこだわりの重要性を西山さんや『受験サプリ』から学びました。

新興国での普及において鍵を握る決済の問題

西山 今後、世界でオンライン学習サービスをビジネスとして成立させるためには、決済方法が影響してくると考えています。無料でサービス提供しているうちは良いのですが、有料で提供するようになると支払の問題が必ず出てきます。例えばメキシコは、クレジットカード保有率が高いので来ると思いますよ!

牧浦 逆にインドネシアはクレジットカード普及率が4%。イスラム教徒が多く、高利貸しを禁止している戒律を連想して嫌がる人が多い傾向にあります。日本ならお母さんに「受講料の1000円、払っておいて」で済みますよね。でも現地の営業に聞いてみたところ、生徒一人ひとりに、生徒の家の一番近くにあるATMの地図や利用可能時間を知らせて、ATMで振り込むようにお願いしているそうです。

渡辺 でも、いずれインドネシアでも利便性が勝って、クレジットカード、もしくはデビットカードなどの現金以外の支払い方法が絶対に普及するはずです。

西山 今、インドネシアでは年間利用料を一括で払ってもらっています。クレジットカード等が普及していけば拡大スピードはもっと上がると思います。この間、フィリピンでも受講料の支払いを現地に根ざした簡易送金サービスに替えた瞬間にユーザーが増え、「キター!」って思いました(笑)。

牧浦 フィリピンでは政府が自国の仮想通貨を発行していたりします。地方に銀行を作っても儲からないという理由もあると思うのですが、一気に飛び越えた新しい取り組みが新興国では生まれる。こういう非連連続なところが面白いですよね。

オンライン学習の実績を世界各地で地道に作る

渡辺 今、インドネシアでは受験熱が高まっていて、日本の高度経済成長期に似ています。裕福な家庭に生まれなくても、努力していい高校に入り、いい大学に入るという流れのなかでチャンスをものにしていくところとか。さらに将来は、大学に進学するということ以外にも、進路や人生の選択肢はもっと広がってくる。その時は、オンライン学習で提供するコンテンツをもっと進化させ、その人ならではのキャリアや人生が構築できるようなサポートをしていきたいです。

西山 そのあたりのことも踏まえ、『受験サプリ』ではコンテンツのひとつとして『藤原先生のよのなか科』や『マイケル・サンデルさんの哲学の授業』など、近い未来、必要になってきそうなスキルを養うためのコンテンツを視聴できるようにしました。今後、国数理社英などの教科学習や受験勉強だけではなく、コンテンツの多角化がキーになってくると思います。

牧浦 その一方で、オンライン学習の成果を実績として作っていくことをあきらめちゃいけない。何大学に何人合格したかという実績は、日本と同様マーケティングにも有効です。勉強し始めるタイミングでは、皆初心者なのでコンテンツの鑑識眼がなく、良い講義動画を提供してもその良さを理解するのが難しいという面があります。「このサービスを使い、○○大学に100人合格しました!」という実績ができれば、コンテンツの良さを認識してもらえる。ただ、これは積み上がっていくものなので、実績作りは地道に取り組む必要があると思っています。

渡辺 新興国のユーザーは日本に憧れを持っているので、日本の生徒の間で大ブレイクしている『受験サプリ』の実績は、彼らの信頼感を高める助けとなっていますしね。

西山 新興国で日本のサプリモデルを一刻も早く、どんどん展開していきたいですね。

質と継続性を担保するため志とビジネスの両立を目指す

渡辺 僕らが提供するオンライン学習によって、生まれてきた環境に左右されることなく、誰もが平等に世の中の競争に参加できるよう、しっかり支援していきたいです。フィリピンでは火山灰難民がいるんですね。大きな噴火で村全部が灰に埋まり、村人全員が引っ越さなければならなくなり、隣町の体育館で暮らすという状況で先生たちも散り散りになってしまった。そういう人たちがオンライン学習で、しかもQuipperを使い、最高の教育を受けて人生を取り戻すというケースがありました。オンラインやテクノロジーは元来、どんな立場の人にも優しいもの。裕福でない、過酷な環境で暮らしている人たちにも、しっかりデリバリーしていく意味は大きいかなと。ちゃんとお金ももらって。

牧浦 そこは、本当に大事なところだと思います。比較的NPOがこういう活動をしていることが多いですよね。ただ、良い先生の授業を受けるという文化が根付いていない場所にサービスを持って行き、「無料で提供する」というのは、本質的に良いことなのか? ここにいつもひっかかりを感じていました。良いコンテンツなのでお金をいただいて提供してもよいのではないか?長期的に見た時、生徒やコンテンツの作り手も含めオンライン学習サービスの質と継続性を考えると、圧倒的に後者がいい。

西山 まさにロマンとソロバンですよね。教育市場は大きいにもかかわらず、すぐに成果や結果が出るとは限らないので、ビジネス化するのが難しい面があります。その壁を乗り越えるためにも、ユーザーに寄り添いながら、その時その時の、それぞれの国、それぞれの社会のニーズに合わせ、サービスを進化させていく。そして、毎月1億人がオンライン教育で最高の授業を受けている状態をより早く実現していきたいですね。一緒に頑張っていきましょう。

(リクルートグループ報『かもめ』2016年1月号特集「未来をつくる次の一手」より転載)

 

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